午前五時のひとりごと

聞かせられる程度のひとりごとです

告白

気づいたらトンネルを歩いていた。

そこには照明がひとつもない。振り返ってみても入り口らしき光は見当たらない。

ただ目を瞑るよりも黒い闇が見えるだけだった。

けれど21歳の僕はここがどんな場所なのか知っている。

あぁ、またか、と思った。

いつから“そうなって”いたんだろう?物心ついた時から何度か経験してきたが、気づくのはいつも後からだ。

歩き疲れた体を地面に落とす。直後、腰から太ももにかけて違和感が染み渡る。

何が起きたのか、目に見えなくても大体は経験でわかる。

「くそ、誰だよこんなとこに水たまりを作ったやつは」

僕は愚痴る。

久々に呼吸以外で口を開いたからか、まったく声が用意されてなかったことに気づく。

反響すらできない情けない独り言がどこにもいけず目の前で暗闇に消えた。

もっと綺麗に発声したかった、と一瞬思いを馳せ、すぐさま「いやこの状況で誰のために?」「誰も聞かないんだからどうでもいいだろ」と音のしない声が飛んでくる。

いつだって頭の中にこういう声は用意されていた。

深呼吸をする。

ズボンの右ポケットにしまっていた携帯を取り出し、点ける。

その瞬間液晶の眩しさに目が開いていたことを思い出す。すぐ細めたが、目の前に残像が居座る。

ため息をつく。

また愚痴を言いかけて、吐いた息を吸い直して深呼吸に持ち直す。

しばらく赤や緑と戯れた後、今度はゆっくりと携帯を見る。大丈夫。

ノートのようなアイコンに触れ、大量のひとりごとにまた白いページを足す。

こうなってしまった時、決まって僕は言葉を書く。

何もない頭上を見上げ、思考を巡らせる。

「…な…っ…」

思考を巡らせる。

「…んな…って…」

思考を巡らせる。

「…んな…つ…まって…」

思い出の傷に触れる。

「みんな、あつまって」

集まる同級生達を、窓の内側から見つめていた。

 

 

気づいたらトンネルを歩いていた。

そこには照明がひとつもない。振り返ってみても入り口らしき光は見当たらない。

ただ目を瞑るよりも黒い闇が見えるだけだった。

けれど23歳の僕はここがどんな場所なのか知っている。

あぁ、またか、と思った。

いつから“そうなって”いたんだろう?

歩き疲れた体を地面に落とす。直後、腰から太ももにかけて違和感が染み渡る。

何が起きたのか、目に見えなくても完全に経験でわかる。

「くそ、お前また水たまりを作りやがったな」

僕は愚痴る。

久々に呼吸以外で口を開いたからか、まったく声が用意されてなかったことに気づく。

反響すらできない情けない独り言がどこにもいけず目の前で暗闇に消えた。

と思った。

光った。言葉の輪郭が見えた。

驚いて横を見ると、遠くの方にかすかに白い半円が見えた。

出口だ。

それがあと数分間歩けば辿り着く場所なのか数ヶ月間歩いても辿り着かない場所なのかはわからなかった。

暗闇では距離がつかめない。

けれどトンネルの先にまだ光があることだけはわかった。

いや、あるいはそれは21歳の入り口の光だったのかもしれない。

どちらでもよかった。大抵のものはとうに捨ててきてしまった。捨てられてしまった。

ただ久しぶりに走りたがっている足元に心持ちは軽かった。

そうだ、今のうちにこの独り言を反響させておこう。暗闇に消える前に光に向かって投げておこう。

どうせまた光は消えるだろうけど、今どこにいるかわかるように。

どうせまた目を瞑りたくなるだろうけど、その日何を思っていたかわかるように。

 

 

 

楽しんで書いてしまいました。ちょっとまえに曲(まがいなもの)を作りました。

  

https://soundcloud.com/hirokiyoneda/xhmryijwpxrg

  

告白

 
「おとなしい子だったと思います
グラウンドよりは図書室を好みました
晴れ渡った空の下より土砂降りの街灯の下によくいました
うまく字を書けなくてよくみんなは笑ってくれました
うまく言葉を話せなくてよくみんなはボールを投げてくれました
そうして僕はたくさんのことを教わりました
机は落書きするものだということ
アリはみんなで潰した方が楽しいということ
嘘は本当になるということ
正義は間違ってるということ
悪いのは全部僕だということ

 

そしてみんなすぐに忘れるものだということ

 

気づいたら僕の声は先生に聞こえなくなりました
気づいたら僕は誰にも見えなくなりました
遠くからみんな集まって、と声がします
僕はみんなに含まれません
一人の時間が増えたので一人で遊ぶのが上手になりました

 

死ななかったら良いのでしょうか
死ねたなら良かったのでしょうか

 

表情を作るのが苦手です
人の目を見れないし笑ったつもりでも笑えてません
朝はなぜか起きれません 夜はいつも眠れません
日差しは眩しくて苦手です 日陰は僕みたいで嫌になります
雨の日は落ち着きます 誰も僕のことを見ないからです
最近窓から見る月と友達になりました

 

ベッドの上でよく、帰りたい、と思うことがあります

 

喜びはいつももやがかります
悲しみは鉛みたいに重たいです
痛みは鈍いです そのかわり息苦しいです
人に優しくしようとすると傷つけてしまいます
人を欲するたびに突き放してしまいます
そしてある日君に言われたのです
疲れちゃった、と

 

ひとりぼっちの夜は寂しいから安心します
都心の朝は明るいから不安です
寝室の昼は何も感じません
ふとプラスチックのゴミみたいに
何もない海に浮かんでる気になります
そして重りに縛られた足に気づいて
捕まってしまった、と僕は思います

 

空で自由にみんなが飛んでいます
僕には気づいていないようです
気にしていないようです
神様は今日も信じられません
運命があるとしたらきっと僕は嫌われてると思います

 

ご飯を食べるのを忘れることがあります
人の名前を忘れることがあります
自分の名前を忘れることがあります
息をするのを忘れることがあります
致命傷な過去は忘れることができません
風が吹くたび 木の葉が揺れるたび 水が流れるたび 思い出します
花が咲くように 鳥が歌うように 君が笑うように
何度だって 思い出します

 

そうだ、ねえ、母さん
真面目に生きてきたつもりでした
出来るだけ人は傷つけずに
間違いを犯さないように
たくさんの荷物を持つように
無駄口を叩かないように
そうして僕は出来てしまいました
僕は悪い子だったでしょうか

 

誰かが僕を指差して笑ってます
どこかが僕を手招きして微笑んでます

 

一歩踏み出すたび 声がするたび 忘れようとするたび 思い出します
自分の体を抱きしめるように その手に力が入って 自分の首を絞めるように
何度だって 思い出します

 

長々と話してしまってごめんなさい
わかっています 僕は一人じゃないということ
だけどきっと僕は
孤独というには家族や友達や恋人に恵まれすぎで
満たされているというにはあまりに僕に恵まれなかったのだと思います

 

そんなことを言っていたらもう時間がないみたいです
最後にひとつだけ

 

ただ僕は 僕に愛されt_